千差万別

つけっぱなしになっていたTVで放映していた番組
NHKのディレクターが自分の重度障害の妹の日常を撮りました、という内容の番組ですが、
これを見てからなにやら気持ちが落ち着かない。
モノ申したくなってここに吐き捨てることにします。

番組冒頭で、
「障害者は不幸しか与えないというのは本当か」というようなナレーション。
そして、自身の身内である妹の日常を撮ることにした、と、
制作の意図が語られておりました。

そして最初は淡々と、妹の日常介護のやり方、それに奮闘する自分、
その自分がやらなかった部分にこんな介護があります、という紹介。

食事介助のとき、今日は介護中に妹が笑ってくれた、と語る息子=ディレクターに
「あんたは『笑っている』ことにすごくこだわっているみたいだけれど
 笑っているがイコール幸せじゃないからね?」
というこの母のコトバにはとても頷かされた、
そう、日常なんだから、いつもニコニコ顔ばかりではなくて当たり前なのですよ。
笑顔でなくても、満足していることだってあるよねって。

たまたまこの妹さんは顔で感情を表現できるし、
「いいよ!」という言葉(…が、上機嫌のときだけ出るのだそうで)もあるし、
だからこそ「笑顔になってくれた=自分の介護が実を結んだ」と
介護者の指標になってしまうことは多いのだけれど。

この人になら大丈夫という甘えがあるから、泣くし、わめくし、拒絶できる。
なのにそれを常に求められているとなれば、ニコニコ顔はいわゆる「営業笑顔」になってしまう、それは介護される者にとっては苦痛なのかもしれない。
でもそれは、あまり気づかれていないことなのかもしれないなぁと。


ここまではよかった。

でもやがて番組の目線は、
ディレクター本人から、日常介護の担い手である母親に移っていって
そこから、どうにも受け入れがたくなってきたのでした。

率直に言うと。
このお母さん、スゴい人なんだと思うの。
数年前に大病したというお母さんは、
自宅を介護施設に改造して障害者である娘の面倒をみたい、
そうでないと不安だ、という理念を持っておられる。

その前段階として自宅で英語教室などを開き、地域貢献して、
自宅の、自分に近い場所で、娘の介護を無理なく続けたいという
その思いの深さには、瞠目するほど。
それは悪いことでも間違いでもない。

ただね・・・。

この家族にはもう一人娘がおられて、
障害者の双子の妹(姉かもしれないけれどもとりあえず妹にする)である彼女は
現在医大生として家から離れて勉強中だという方。

番組の後半で、この母親が医大生に電話をかけるわけです。

「だからさ、これはお願いだから」
といいながら、
自宅に障害者の娘の施設を作るために、卒業後は自宅近くに帰ってきてほしい、と。
泣きながら。
そして「お願い」としながら「必ずと約束して」ともいう。

気持ちはわかる。
色々たくさんのハードルを飛び越えながら、
それでもどうしても施設の地域医療を担ってくれる人がいなくて、
施設開所がなかなか進まない、そこさえクリアできれば
ずっとずっと開所の望みが高まるのに!
そんな気持ちが口に出たのだと思う。

けれど、私はこの行動が、なんだかちょっと許せなくて。

確かに、在宅看護は、障害者の娘さんにとって一番よい生活かもしれない。
そして恐らく、お母さんにとっては一番精神的に心地よい選択なんでしょう。

でも、医大生にとってはどうなの?
ひょっとすると、彼女は地域医療よりも、脳神経科よりも整形外科よりも
別の医療に興味惹かれているのかもしれないし、
病理のほうに行きたいのかもしれないし、
・・・彼女の意志はムシなんですか?

医大生になったのも恐らく姉の影響が大きいはず、
でもそれは彼女自身が選んで努力したことだろうから、それはいい。

けれどその先の進路まで、姉の影響を押し付けるって。
それは、今時の親ならやっちゃいけないことなんじゃないですか?
それも「自分の心の安寧のために」。

そして更に腹が立ったのは、このお母さん、医大生に電話をかける前、
撮影者の息子ディレクターに
「あんたがいると話をしにくいわ」
と席を外させた。

・・・ふーん。
NHKディレクターである息子にはその話を聞かせられない。
医大生には「お願い」という名の強要泣き落とし。

おかしいよね?
そりゃ医大生がウンと頷けばすごく話は簡単なのでしょう。
でもね、ディレクター辞めて、息子に地域医療者を探す手伝いさせるって手だってある。
息子には押し付けせず、「話を聞かれたくない」ってなんですか、それ。

障害者の娘には最善を考え、では妹にはどうなの?
障害者だから手厚く保護したい、それは自分しかできないから、っていう
想いは痛いほどわかるけれど、
医大生と障害者の娘とは、”同じようにあなたが庇護すべき娘という立場”だっていうこと、忘れちゃいけないんじゃ?
あまりにもその医大生の娘に頼りすぎでしょうよ。

私、障害者は「すべての人を不幸にするわけではない」と思っている。
でも見ていて私は、この医大生の娘は不幸だな、と感じちゃったのです。


番組中で一番共感できたのは、
その医大生娘のコトバ。

「私、xxちゃん(姉の名前)がいて、
 両親が忙しくてかまってもらえなかったりで、
 xxちゃんのこと憎みそうになって、
 でもそういう気持ちをもってしまう自分のこともイヤで・・・」
(うろ覚えなので主旨だけこんな感じ)

結論。
この方の場合、
障害者本人が彼女を不幸にしたんじゃない。
家族が医大生の娘に不安や自己嫌悪感を植え付ける行動をしてきたことが
不幸の根源。

このもう一人の妹のコトバに対し、
兄としてのディレクターの言葉も感想も何もなかった。
同じ兄弟として彼はどうだったのだろう、そこを知りたかったわ。

更にそのお母さんの「施設開所が難しい」と悩む、その要因には何も触れず。
電話の内容で、施設主治医の問題があるんだろうな、はわかったけれど、
それは「個人の問題」ではなく「社会を巻き込まないと解消できない問題」であるのだということ、
おそらく介護にかかわる人材の確保がしづらい現状、
そこを突っ込んでほしかった。

それからそのお母さんが自分の娘である医大生を
「(あえてこの怖いコトバを使うけれども)生贄」としてまで「在宅介護」を最良とする、その理由・・・
「在宅以外の介護」はダメなものなのか、という観点は何もない。

そこに、客観的視点がなく、このお母さんの感情だけの話なのであれば、
本当に医大生の娘さん、可哀想すぎるよ。
在宅以外の介護のほうが、障害者娘さんも「営業笑顔」使わなくて遠慮が必要なくてよかったのかもしれないよ?
ひょっとしたら「お母さんや妹を自分のために使うこと」に、負い目があるのかもしれないよ?
そんな気持ちを伝える術を、彼女はもっていないわけだから。
でもそうじゃなくて、見舞いにいけないような遠いところにしか施設がない、のような理由かもしれない。
このお母さんの判断が間違いではないなんて、この番組の中の情報だけじゃわからない。

本来、「医大生の娘」なんて駒がないのなら、
そっちの選択肢も考えるのが普通なのに。
でも頑なにそれをイヤがるのはどうしてなの?>お母さん


そして障害者の日常を追うような番組を見るといつも感じること。

「この家族が『障害者のいる家族の標準』だなんて思わないで」

障害の程度も、症状も千差万別で、
だから介護している人の苦労だって千差万別なのです。

なのにこういう番組があると、

「●●ちゃんは障害児だから、あなたはxxしているの?
 だってTVの番組でやっていたわよ」

的な見方をする人が必ずいて、

違うんだってば。

例えば、
「東大理3」に兄弟全員を合格させました
そんなご家庭があって、TVで紹介されました、とする。
でもそのご家庭の母がやっておられることを
市井の受験生ママみんながやっていますか?
それと同じことなのに。


昔、長男が入院していたときに、同室になった障害児…赤ちゃんのママにぽつりと言われた一言が忘れられなくて。

「ねこってさん、どうしてそんなに笑っていられるの?」

当時私はもう障害児母歴7年超えていて、
笑うことも怒ることも泣くことも、
長男が病気をする前とほとんど変わらない状態でいた、
だから、長男が傍に居なければ、そういう子どもがいるってわからない、らしい。

でもね?
「障害者の家族だからこうあるべき」
なんて決まり事はどこにもないんだよ?

そういう子どもがいるから暗い顔しておかなくちゃとか、
彼らのためだけに時間を使うんだろうなぁとか、

そういう先入観と闘うのって、意外と大変だったかもしれない。
外部の善意の他人とも、自分の内側とも折り合いつかなくて。

ああ、ほら、だからそういうことじゃない?

「障害者が不幸にしている」
のじゃないよ。
でも。
「障害者とはその周囲とはこうであるべきって決めつけは不幸を呼ぶ」
その可能性はあるよ。


コメント

まるこ
2017年10月1日16:56

なるほど。ねこってさんのお考え拝読させて頂きました。
そうですね。おっしゃる通りだと思います。
が、実際介護の経験のない私にはまだまだ理解しきれないこともあって。
そうですね、障害がある人が家族にいると偏った見方とかありますよね。
それぞれのお宅でもいろんな生活がある様に、障害者がいるご家庭もそれぞれですよね。そう言う私も障害者ですがごく一部の方にカミングアウトして以外隠しているのも偏見や理解されない事がわかるので避けちゃうんでしょうね。それもどうなんでしょうね??
ただ医大生の娘さんのは、なんだかお気の毒だと思いました。
我が家の母親とかぶるところがあり、息子には寛大で娘には過剰に支配する事があります。小さな頃からの扱いの差と、母の支配によって私は精神を病みました。
今でこそ母との関係を受け流しながら保つ事が出来る様になりましたが、それまでは地獄でした。医大生に娘さんが私の様にならないと良いなと思ったりして。
まぁ、私が愚鈍ですからいけないのかも知れませんけどね。
なんだかすみません。うまく書けなくて。

ねこって
2017年10月1日20:43

コメントありがとうございます。
私も上手に書けそうにない、とお断りしてから・・・

一口で障害者といっても、
ぱっと見てわかるひと、分からない人、動ける人、動けない人、
病気で不自由になった人、遺伝子に異常があった人、本当にさまざまで、
それぞれによって対応も、福祉対策も違っていて、
ひとくくりにまとめられるようなものではないのかも。

他人からの本人へや家族への偏見もシンドイものがあるのですが、
私の場合は最初のしんどさは「自分自身にある『障害者の親』」というイメージ」から逃げ出すところにありました。
「子どもが病気でこんな体になってしまったのだから苦悩しなくてはならない、苦悩していないのは私がダメ人間なんだ」のような思い込み…
本文の赤ちゃんのママもあの時点でそういう柵で苦しんでいたと感じたのです。
笑ったって、自分の時間を持ったって、いいのに。
この番組のお母さんもそうやってご自身をがんじがらめにしてしまい、
その網の中に医大生のお嬢さんをも取り込んでしまおうとしているようで、
見ていてとても苦しかった。
ここで吐き出せて、少し自分の考えがまとまって、スッキリ…とはいかなくても
うん、そういうことなのか、って頷いて気持ちが収まりました。

そんな私の気持ちの整理のために、
まるこさんの過去の傷に触れてしまったのでしたら申し訳ないことでした。
お謝りしておきます。
私の中で、まるこさんは思いやりのある方という印象です。もしかしたら相手のことを考えすぎて動けないことがあるのかもしれないけれど、それは愚鈍というのは違っていて…そんな卑下なさることなどないはずです♪

障害の有無にかかわらず、子どもにはそれぞれの個性があって、
親っていうのはその個性によって差別しちゃいけない、
もちろん個性に合わせた対応という区別は必要であったとしても。
そういう考えがあって、だから、
母親が片方の娘の将来のために、もう片方の娘の将来を決めつけようとする、
それが「障害があってこのコは可哀想だから」という理由のもとであるのだとしたら
それは3人ともに不幸なことなんじゃないかという気がして仕方がないのです。

障害について、カミングアウトしないでそのまま平穏に生活できているのなら、わざわざする必要はないのでは。
私は実はかなづちで泳げないけれど、そんなこと、誰にも言いません。
それと同じようなレベルで、病気があること、できないことがあることを言わない、でもそれって普通でしょ?という世の中であるべきと思います。
もしくは、
「私、今糖質制限してるから、ご飯ぬきー」
みたいに気軽に言える風潮でもいいなぁ。

マダムM
2017年10月2日10:27

日本独特(かな?)の偏見、〇〇だから××、という括り。私も一人っ子だし、娘も一人っ子だと「一人で寂しいでしょう」という偏見。兄弟姉妹がいて、皆亡くなり私一人が残ったのなら寂しいかもしれないけど、元々一人は寂しくないものです(^.^)
以前統合失調症のピアニスト、珈琲の店を切り盛りしている少年を特集した番組の最後に「障害を持っている=特殊な才能がある、ではなくて普通の人なんですよね」と。まさにその通りだと思います。
ねこってさんが書いておられる番組は視ていないのですが、そのお母さんには賛同出来ませんね。本当は障害を持ったお子さんより、そのお姉さん?妹さんの方がずっと寂しく辛い思いをして来たと思うのですよ。母親の愛情はほぼ障害を持ったお子さんにいっていると思う。他のお子さんは甘えたい時も色んな場面でも我慢して来たと思います。そんな中、そのお子さんの将来をも支配しようとするのは行き過ぎだと思います。でもお母さんも気持ちも分かりますよ、自分が年を取って来て、面倒を看てやることが出来ない不安。なんとか自分がしてきたように自宅で面倒を看ることが愛情だと信じており、姉妹なんだから面倒を看るのが当然だと。彼女の幸せ云々を考えてやる余裕が無いのでしょうね。
たぶん、施設に入所させると言う事は、『見捨てる』ことだと信じ込んでいるのでしょう。気の毒ですが、この母親が病気とか怪我で自宅介護が出来なくならない限り、施設は無理でしょうね。

障害のカミングアウトの件ですが、私の従姉は夫の事をご近所にカミングアウトしています。何故なら、くも膜下出血を患い、その後遺症で記憶障害があります。何回かやっているらしいのですが、徘徊をするので、ご近所の集まりに積極的に参加し、顏を覚えて貰い、もし徘徊している場合の補助をして貰うためです。私は従姉の判断はいいことだと思っています。
私も本当の当事者じゃないので、コメントずれてたらごめんなさいね_(._.)_

ねこって
2017年10月2日17:34

マダムMさま
コメントありがとうございます。
私のいいたいことを言葉を換えて上手にお話し下さった感じです。
双子であればなおのこと、医大生の娘さんの今までのガマンは普通では考えられないくらいだと思うんですよね。
その上これからもずっと、というのは・・・姉妹だからといっても別の人間で、別の人生を送るのは当然なんだから。それは尊重してあげなくてはいけないのに、って・・・。
もうソコにもやもやして、あー、もうヤダヤダってここに吐き出しちゃった次第ですm(_ _)m

うちは一番上が障害者で、だから次の子たちを産むときに覚悟を持って産んでいるけれども、このお母さんはそうではないみたいだからよけいなのかな。

カミングアウトの件、私もその従姉さんの判断、処置は大正解だと思います。
我が家も、消防や警察関係にはここに体動かせない人間がおります、とちゃんと知らせています。避難所に行くことさえも困難であるので、わが身を守るためには必要な場所への情報開示は厭いませんよ。
そして私だって船の上だったら「実は泳げないから水が怖いの」って非常事態への備えのためにカミングアウトしちゃうかも(^_^; 陸にいるときならそういうこと、知らせなくてもキケンじゃないですものね。
状況次第で、必要と不要を切り分ければよいのではないかなぁと思います。

ねこって
2017年10月2日19:50

そして、一人っ子かぁ、そういう見方されちゃうんですね。
親友が一人っ子ですが、「一人っ子であるからこそ、上手に友だち作りなさい」と育てられたそうです。そして、その教え通り、愛想の良い彼女は本当にたくさんのよいお友だちに恵まれていて幸せそうです♪
兄弟っていったって、社会人になって家を出たらそうそう「仲良しこよし」ができるわけではなく、相続のやっかいさを考えると・・・
一人っ子だからこそのメリットっていうのだってたくさんあるように思えてきます(^_^;

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